1999年度
修士論文・特別研究発表会

1993年北海道南西沖地震と1983年日本海中部地震による地殻変動
-有限要素法による地殻変動と観測データとの比較-

伊藤 武男

section{はじめに}
 日本海東縁部はプレートテクトニクスの立場からみると非常に興味深い地域のひとつである。この地域は新生プレート境界になるのではないのかという議論が今でもなされている。その証拠として、1983年日本海中部地震(M7.7)と1993年北海道南西沖地震(M7.8)が逆断層であったことが挙げられる。一方、この北海道南西沖地震の翌年の1994年には国土地理院によりGPS 連続観測網が全国に展開され、従来の測量に比べ飛躍的に時空間的な観測密度が向上した。GPSのデータより、Ito et al., 2000(印刷中)は北海道南西部に太平洋プレートの沈み込みでは説明できない地殻変動があることを指摘した。本研究では、この北海道南西部の地域に着目し北海道南西沖地震の影響によってこの地殻変動が引き起こされたとして北海道南西沖地震の粘弾性緩和による変動を有限要素法によってシュミレーションすることにより、上部マントルの粘性率を推定することを試みた。また、同時に日本海中部地震によって北海道南西沖地震が誘発されたかどうかについても考察を行う。

section{単純モデル}
 本研究では、3次元有限要素法コード(吉岡・鈴木1997)を利用して、断層モデルを構築した。有限要素法は境界条件を与えることが容易であり、地殻構造の違いを考察することが可能であるという利点がある。まず、粘性率と地殻構造の違いによる粘弾性的な振る舞いを理解する必要があるため、単純な矩形の断層モデルを構築し、その断層面に1mの一様なすべりを与えて考察を行った。この時3つの地殻構造モデルと粘性率 10(19乗) と 10(20乗)Pas に対して考察を行った。弾性層の厚さと粘性率に大きく依存しており、粘性率の違いのみでは変位パターンには大きな違いは見られず、緩和レートに大きく影響を受けた。

section{日本海東縁部モデル}
 日本海東縁部モデルでは、1983年日本海中部地震,1993年北海道南西沖地震の断層を仮定し、断層面上のすべり量の不均一分布には前者には Fukuyama and Irikura (1986), 後者にはおいては Mendoza and Fukuyama (1994) のモデルを参照し、それぞれ2つずつの計4つの断層を含んだモデル化を行った。モデル構造は加藤 他(1999)(投稿中)と西坂 他(1999)(投稿中)のモデルを参考にモデル化をおこなった。日本海東縁部においての粘性率が 10(19乗) と 10(20乗) Pas のモデルと北海道南西沖地震の断層が地表まで達しているか、達していないモデルの計4つのモデルを構築した。4つのモデルとも、地表での変動パターンはほぼ説明できる。しかしながら、GPSでの観測は、モデルで計算された値より大きな変動を捕らえている。地表での変動の大きさは粘性率に依存しており粘性率が10(19乗)Pas よりも小さな粘性率を仮定しなければ説明がつかない。また、断層が地表まで達しているモデルと達していないモデルでは粘性率が高い場合では大きな違いがが見られるが、しかしながら粘性率が低くなるとほとんど同じ変動を示すことが明らかになった。下図は粘性率が10(19乗)Pas で断層が地表まで達しているモデルの1983年日本海中部地震と1993年北海道南西沖地震の地震時の変動を取り除いた変動を示している。時間は北海道南西沖地震から15年経過した時である。