1999年度
修士論文・特別研究発表会

月の局地的なアドミッタンスを用いた内部構造の推定

青島 千晶

 本研究の目的は月の重力場モデル (LP75G [Konopliv et al., 1998] ) と地形モデル ( GLTM-2 [Smith et al., 1996] ) から内部構造を推定することである。月では全球平均で地形と重力の相関を計算すると10次(波長約500km)以上の高い次数でほとんど0となるという特徴がある。地球を含めて、他の地球型惑星では、長波長の地形はAiry のアイソスタシーにより荷重が相殺されるため相関が小さくなるが、短波長の地形はリソスフェアの弾性により支えられるため重力異常に表れやすく、相関が大きくなる傾向を持っている。月でのみこのような相関が得られない原因として、�観測データの分布が不均一であり、特に裏側でデータが得られていないこと、�月が全球で一様な地形の相殺のメカニズムを持たないこと、等が考えられる。そこで、重力と地形を局地化してスペクトル解析を行うことにより、上のような月の特異性が真に月の内部構造を反映しているのか、あるいは観測点分布の不均一に起因する見かけ上の特徴にすぎないのかの解析を試みた。その上で月面上各地域での重力/地形相殺のメカニズムの比較検討を行った。
 局地的なスペクトルを求めるために,Wavelet解析の手法を応用して球面上のデータを局地化するSimons et al.[1996] の方法を用いた.その結果、表側のほとんどの地域では短い波長でも高い相関が得られることが分かった。特に、負の地形に対して大きな正の重力異常を持つ盆地(Mascon)では、誤差が小さく振幅の大きい負のアドミッタンス(次数ごとの重力と地形の比)が得られた(Fig.1)。
 次に、いくつかのMasconついて観測量(LP75GとGLTM-2)から得られたアドミッタンスと、モホ面の深さやリソスフェアのElastic Thicknessなどを考慮した内部構造モデルの計算結果とを比較し、形成時期が異なる盆地(Fig.1)や高地(Fig.2)についてリソスフェアの力学的構造の推定を試みた。その結果、�表側の平均的な地殻の厚さは約50kmであること、�盆地の下ではモホ面の起伏は30kmから地表付近にまで及んでいること、�高地の地形と重力が従来提案されている地殻二層モデル[ Wieczorek and Phillips, 1997] では説明がつかないこと、が明らかになった。